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ラグジュアリーの頂点、ルイヴィトン(Louis Vuitton)が起用してきたデザイナーたち
ラグジュアリーブランドの中でも、常にトップであり続けるルイヴィトン(Louis Vuitton)。
移り変わりが激しいファッションの世界で、これほどブランドイメージを保ち続けるメゾンも珍しいだろう。
大抵どんなブランドでも、デザイナーの交代だとかマーケティングの失策だとかで著しく人気が低下する時期を経験するが、ルイヴィトン(Louis Vuitton)には取り立ててそういった時期が思い当たらない。LVMH(ルイヴィトンモエヘネシー)グループを結成してからは、出店数の過剰やブームによる希少価値の減少で成長率が低減することはあっても、ブランドイメージの低下にまでは至らない。
しかし、それほどブランドに訴求力があれば、デザイナーを務める人間のプレッシャーは計り知れない。
そこで今回は、これまでルイヴィトン(Louis Vuitton)という最高級メゾンで活躍した、歴代プレタポルテ(既製服)デザイナーの功績をご紹介したい。
ルイヴィトン(Louis Vuitton)のデザイナーの変遷
150年以上の歴史を誇るルイヴィトンだが、本格的にプレタポルテに参入したのは1998年と、ファッションの歴史から言えば最近だ。
しかし、プレタポルテ開始当初から業界では影響力を持ち、老舗ラグジュアリーの看板に恥じないコレクションを展開し続けることに成功した。それは歴代のデザイナーなしには成し得なかった成功だ。
マーク・ジェイコブス(MARC JACOBS) 最初のプレタポルテデザイナー(1997~2013)
ヨーロッパラグジュアリーを象徴するメゾンでありながら、ルイヴィトン(Louis Vuitton)最初のプレタポルテを任されたのは、ニューヨーク出身のマーク・ジェイコブスであった。
早くから頭角を現したマーク・ジェイコブスは、デザイン学校の学生だった頃からキャリアをスタートさせる。自身のブランド、マークジェイコブス(MARC JACOBS)はデビューするやいなやファッション界で重要視される賞を総なめにした。ルイヴィトン(Louis Vuitton)のアーティスティックディレクターに就任したのは34歳。
若き才能はすでに世界的に知られた存在だったが、トップブランドの全権を任されたことは驚きを持って受け入れられた。
ルイヴィトン(Louis Vuitton)で彼が成し遂げたことは、ブランドの歴史の中で非常に重要だった。彼のデザインはもちろん、卓抜したマーケティングや広告手法のおかげで、ルイヴィトン(Louis Vuitton)にまつわりついていた“老舗のバッグブランド”というイメージは(悪くないイメージだが)払拭され、“世界最先端のファッションブランド”としての地位を確固たるものとした。
今風に言えばLGBTに属するマーク・ジェイコブス自身も、奔放な人柄や天性のスター気質で人気者となった。
売り上げも劇的に増加し、ビジネスも絶好調になったブランドは、2000年に当初レディースのみだったプレタポルテコレクションにメンズラインを加え、ラグジュアリー層の顧客をさらに増やすことに成功した。以降、2013年まで16年に渡ってクリエーションを続け、自身のブランドに専念する目的という、円満な理由でルイヴィトン(Louis Vuitton)を退任することとなった。
マーク・ジェイコブスの功績は、ファッション界にとってもブランドにとっても伝説の一つだ。
キム・ジョーンズ(KIM JONES) メンズアーティスティックディレクター(2011~2018)
ラグジュアリーの旗手であるルイヴィトン(Louis Vuitton)に新たな風を吹き込んだのが、ロンドン出身のキム・ジョーンズだった。ロンドンの名門ファッションカレッジ、セントラル・セント・マーチンズを卒業し、自身のブランド、キムジョーンズ(KIM JONES)を立ち上げた。
自身のブランドでは、ストリートテイストのコレクションやコラボワークなどの発表で精力的に活動。2006年のサッカードイツワールドカップの時期には、主にサッカー用品を取り扱うスポーツブランド、アンブロ(UMBLO)とコラボして話題となるなど、今では珍しくないが以前からコレクションブランドでありながらストリートの空気を重視していた。
ダンヒル(dunhill)のクリエイティブディレクターを経験した後、2011年にルイヴィトン(Louis Vuitton)に移籍。得意のストリートテイストを上手くラグジュアリーの世界観に落とし込む手法は評価が高い。
また、キム・ジョーンズといえばコラボの手練で、ルイヴィトン(Louis Vuitton)ではナイキ(NIKE)やフラグメントデザイン(Flagment design)、最近はキム・ジョーンズ名義で日本人にも馴染み深い(ジーユー)GUとコラボを発表した。そして、2017年のシュプリームとのタッグは世界的な熱狂を巻き起こし、ここ10年で最大のファッショントピックとなった。
ニコラ・ジェスキエール(NICOLAS GHESQUIERE) レディースアーティスティックディレクター(2014~)
偉大なマーク・ジェイコブスの後任となったのが、フランス人のニコラ・ジェスキエールだった。
ファッションの専門教育は受けていないが若いうちから多くのブランドで経験を積み、24歳頃にフリーランスのデザイナーとしてバレンシアガ(BALENCIAGA)のライセンス部門のデザインを請け負った。
これをきっかけに数年後、バレンシアガ本体のデザイナーに就任。100年以上の歴史を持つバレンシアガが変革したことをアピールする衝撃的なコレクションで、主要な賞をいくつか受賞した。
バレンシアガの歴史的価値と、変革に成功したジェスキエールの才能に注目したケリンググループ(当時PPPグループ)は、バレンシアガを買収。LVMHと双璧をなすファッションコングロマリットの傘下となったバレンシアガは、ジェスキエールの手腕によって本格的に世界の市場で存在感を高めていくことになった。
そんな実績を引っさげてルイヴィトン(Louis Vuitton)にやってきたジェスキエールは、再び賞ラッシュを巻き起こす。
アーティスティック・ディレクターに就任して一年後に、ビジネス誌のウォールストリートジャーナル主催のイノベーターアワードを受賞。他にもデザインの賞を獲るなど、ファッション面のみならずビジネスマンとしても高い評価を確立。さらに、2016春夏コレクションの広告モデルに、ゲーム“ファイナルファンタジー”シリーズのキャラクターであるライトニングを起用し、世間の度肝を抜いた。今までにない発想でルイヴィトン(Louis Vuitton)に新たな感覚をもたらしたジェスキエールは、現在もレディースのアーティスティックディレクターとして活躍している。
ヴァージル・アブロー(Virgil Abroh) メンズアーティスティック・ディレクター(2018~)
そして、今年のファッション界の話題をさらったルイヴィトン(Louis Vuitton)の人事が、ヴァージル・アブローの起用だ。
カニエ・ウエストの事務所でクリエイティブディレクターを務め、2014年春夏シーズンに自身のブランド、オフホワイト(OFF-WHITE)をデビューさせた。オフホワイトは前身ブランド、パイレックスヴィジョン(PYREX VISION)の布石が効いたせいもあるが、デビューしてすぐに現在のストリートファッションシーンを牽引するブランドになった。
前述のジェスキエール同様、ヴァージルもファッションの学校に通った経験はないが、ジェスキエールとは異なるのが、他のブランドでキャリアを積んだこともないという点。
大学の建築学科を卒業して後、建築関係の仕事に就職。ただ、学生時代からファッションやサブカルチャーに傾倒していて、いつかはそれらを仕事にしたいという考えがあったそうだ。
ほどなく建築の仕事を辞め、同郷で親交のあったカニエにセンスを買われ、仕事をともにすることとなる。
以降の活躍は周知の通りだが、なんと言ってもヴァージルのルイヴィトン(Louis Viutton)入りはショッキングなニュースだった。
前任がストリートテイストを得意とするキム・ジョーンズだったとはいえ、キムに輪をかけて出自もクリエイションもゴリゴリにストリートなヴァージルが、ラグジュアリーメゾンの頂点で指揮を採るのだ。
シュプリームとのコラボレーションでラグジュアリーとストリートに垣根はなくなったともっぱら話題だったが、さらにそれを強化するような人事。
さらに言えば、ラグジュアリーメゾンでアフリカンアメリカンがトップに就くのも過去に例がなく、隔世の感を禁じ得ないというブランドのファンも少なくなかっただろう。
ヴァージルの初コレクションとなる2019SSランウェイは今年6月に行われた。
オフホワイトで彼が定着させた、ベーシックなカジュアルにレタリングやオーバーサイズ感を加えつつリッチな雰囲気を加えた“ラグジュアリーストリートウェア”は鳴りを潜めたが、ルイヴィトン伝統のボストンバッグをスケルトンにしたり、最初の10体のモデルを前身ホワイトでスタイリングするアイディアで、彼に備わるストリートカルチャーを随所に散りばめたランウェイとなった。ヴァージルは、ルイヴィトン(Louis Vuitton)とファンションの未来を握っている。今後も彼のルイヴィトン(Louis Vuitton)での活躍から目が離せない。
ファッションで社会の未来を切り開くルイヴィトン
以上、ルイヴィトン(Louis Vuitton)の主要なデザイナー達をご紹介してきた。
こう振り返ると、ストリート、ゲームキャラクター、LGBT、アフリカンアメリカン、ライバルグループの名手、と、ブランドの世界観を作り上げるデザイナーやモデルの起用に対し、保守的な感覚はまったくない様子が窺える。それは、ファッションという文化自体が、時代に逆らったり時代を変える役割を担ってきたことを象徴しているようだ。
何かとネガティブな話題の多いファッションの世界だが、ルイヴィトン(Louis Vuitton)ほどの大手がこのように攻めの姿勢を見せているのだから頼もしい。是非、今後とも勇気あるラグジュアリーメゾンとして、世界のファッションシーンをリードしてほしい。
この記事を書いた人
MODESCAPE
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