
「プロテイン素材」が変えるファッションの未来と、そのリセール価値
衣服の素材は長らく、コットンやウールなどの天然繊維と、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維という二つの選択肢のなかで発展してきました。しかし今、そのどちらにも属さない「プロテイン素材(構造タンパク質素材)」という第三の繊維が、国内外のクリエイターやメゾンから注目を集めています。
特に日本のバイオベンチャー「Spiber(スパイバー)」が開発した「Brewed Protein(ブリュード・プロテイン)」に代表される人工構造タンパク質繊維は、カシミヤのような滑らかな肌触り、ウールのような嵩高性、シルクのような光沢といった特性を、分子レベルの設計によってコントロールできる画期的な素材です。本記事では、この次世代テキスタイルの仕組みと、それを採用したブランドの具体例、そしてリユース市場での評価について解説します。
プロテイン素材とは何か ── テクノロジーが生んだ「第三の繊維」
プロテイン素材が従来の繊維と一線を画すのは、その製造プロセスにあります。ここでは、Brewed Proteinを例に、この素材がどのように生まれるのかを整理します。
Spiber社の技術は、もともと世界で最も強靭な繊維とされるクモの糸を人工的に再現する研究から出発しました。そこから進化を遂げ、現在は微生物による発酵プロセス(Brewing)を活用し、植物由来の糖類を栄養源にタンパク質をゼロから合成するアプローチを確立しています。動物を傷つけることなく、また石油に依存することもなく、上質な繊維を生み出せる点が最大の特徴です。2022年にはタイで初の量産プラントが稼働を開始し、生産規模は着実に拡大しています。
Brewed Protein繊維は生分解性を有しており、最終製品の設計によっては石油由来素材によるマイクロプラスチック排出の課題解決にも貢献が見込めるとされています。環境負荷の低減とハイエンドな質感の両立という点で、サステナビリティとモードの美学を高い次元で接続する素材と言えます。
採用ブランドとアイテムの特徴 ── 実験室からワードローブへ
Brewed Protein繊維はすでに実験段階を終え、国内の主要ブランドのコレクションに浸透し始めています。ここでは、各ブランドがこの素材をどのようにデザインに落とし込んでいるかを紹介します。
Goldwin(ゴールドウイン)/THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)
Brewed Protein繊維の実用化において最も長い歴史を持つのが、Spiberと2015年から共同開発を続けてきたゴールドウイングループです。
2019年8月にTHE NORTH FACEからTシャツ「Planetary Equilibrium Tee」を発売したのを皮切りに、同年12月には人工タンパク質素材を用いた世界初の高機能アウトドアジャケット「MOON PARKA(ムーンパーカ)」を50着限定で発売。当時はWWDJAPANが「歴史的な一着」と報じるなど、ファッション業界に大きな反響を呼びました。その後もGoldwinブランドからニットウェア「The Sweater」、実験的プロジェクト「Goldwin 0(ゴールドウイン ゼロ)」からはシェルジャケット、フリース、さらには世界初となるBrewed Proteinデニムジャケットとパンツを発表しています。
そして2023年9月29日、共同開発開始から8年目にしてついに量産体制が実現。THE NORTH FACE、Goldwin、nanamica、THE NORTH FACE PURPLE LABEL、WOOLRICHの5ブランドから計17アイテムが世界同時発売されました。THE NORTH FACEの定番「Nuptse Jacket」、GoldwinブランドのMac CoatやDenim Shirt、nanamicaのBalmacaan Coat、WOOLRICHのFuture Arctic Parkaなど、各ブランドのシグネチャーモデルにBrewed Protein繊維を採用した点が象徴的です。防水透湿性を持つ機能素材との組み合わせにより、過酷な環境に耐えうる機能性と都市生活に馴染むデザインを両立させています。
ゴールドウインは2030年までに新規開発商品の10%をBrewed Protein素材使用製品にシフトするという目標を掲げており、プロテイン素材の普及を最前線で牽引する存在です。
Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)/Y’s(ワイズ)
2024年4月、三越の「未来に繋がるコレクション」プロジェクトの一環として、「Yohji Yamamoto collections」と「Y’s」からBrewed Protein繊維を使用した計8型のアイテムが三越伊勢丹限定で発売されました。日本橋三越本店では期間限定のPOP UPストアも展開されています。
Yohji Yamamoto collectionsからは、ウィメンズのドレープブラウスやギャザーシャツ、デニムパンツなど4型を展開。なかでもドレープブラウスは、身頃の中心部に配された立体的なドレープが歩くたびに揺れ、ヨウジヤマモトの哲学である「動的な美」をBrewed Protein繊維で体現した象徴的なピースです。デニムパンツは左右で分量の異なるアシンメトリーなシルエットで、ブランド特有の「未完成の美学」を新素材でも貫いています。
Y’sからは、ブランドを象徴するブロードコットンシャツとデニムパンツの4型を展開。全ピースにかすれたタッチで描かれたサボテンの花のプリントがあしらわれ、Brewed Protein繊維とコットンの混紡が生む独特の質感と相まって、Y’sらしい唯一無二の造形が完成しています。
いずれのアイテムも、ヨウジヤマモト社がこれまで培ってきたパターンワークと素材への深い理解が、新世代の繊維と出会うことで何を生み出すかを示した意欲的なコレクションです。
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(エーポック エイブル イッセイ ミヤケ)
独自の衣服製造プロセスを追求するイッセイミヤケのプロジェクトでは、宇多田ヒカルの2024年全国ツアー衣装をはじめ、複数の実験的プロジェクトにおいてBrewed Proteinを採用。軽量性と立体的なカッティングを維持する保形性を活かしたフューチャリスティックなシルエットが話題を集めました。
YOKE(ヨーク)
デザイナー寺田典夫氏が手がけるYOKEは、2024年春夏コレクションでBrewed Protein繊維を初採用。ニットウェアを中心に計8型を展開しました。上質な落ち感と、肉厚ながらも軽やかな質感が特徴です。
Margaret Howell(マーガレット・ハウエル)
2024年10月より、Brewed Proteinファイバーを使用した日本限定コレクションを展開。柔らかく膨らみのある風合いのプルオーバーやロールネックを、ダークブルー系のトワイライトカラーで提案しています。
UNITED ARROWS(ユナイテッドアローズ)
サステナビリティ活動「SARROWS」の一環として、Spiberとの協業で独自のBrewed Protein糸を開発。「BATONER」のニット別注(メンズ・ウィメンズ各1型)として2024年に発売されました。
リユース市場での評価 ── なぜプロテイン素材はリセールバリューが高いのか
最先端のテクノロジーとトップブランドのデザインが融合したプロテイン素材のアイテムは、リユース市場においても注目を集め始めています。ここでは、その背景を解説します。
プロテイン素材アイテムのリセールバリューを支えている要因は主に二つあります。ひとつは生産数の限定性です。MOON PARKAの50着限定に象徴されるように、多くのアイテムが抽選販売や限定店舗での展開にとどまっており、市場に出回る数自体が少ない状態が続いています。2023年秋冬の世界同時発売で供給量は拡大しましたが、依然として一般的なアパレル製品と比較すれば希少性は高いと言えます。もうひとつは、素材自体の耐久性と風合いの持続力です。Brewed Protein繊維はタンパク質由来でありながら高い堅牢性を備えており、数年が経過してもクオリティが大きく損なわれにくいとされています。
これらは単なるトレンドアイテムではなく、ファッションにおける素材革新の転換点を象徴するプロダクトです。その希少性と時代的意義から、今後さらに評価が高まる可能性があると私たちは考えています。
MODESCAPEでは、こうしたプロテイン素材が持つ先進性と、それぞれのブランドが表現したカッティングや縫製の妙を、単なる「古着」としてではなく、現代のテキスタイル史における重要なピースとして正しく評価いたします。
まとめ
プロテイン素材を用いた衣服は、「天然か、合成か」という従来の二者択一を超えた、新しいテキスタイルの地平を切り拓いています。ヨウジヤマモト、イッセイミヤケ、ゴールドウインといったトップブランドがこの素材に可能性を見出し、それぞれの哲学のもとでプロダクトを世に送り出していることは、単なる環境配慮を超えた本質的な価値がそこにあることの証です。
私たちMODESCAPEは、素材の組成タグに刻まれた「分類外繊維(Brewed Protein)」の文字が持つ意味と、それぞれのブランドが表現したカッティングや縫製の妙を正しく理解し、次の愛好家へと繋ぐ体制を整えています。もし、手放すことをご検討されているプロテイン素材の一着がございましたら、ぜひ一度ご相談ください。
Brewed Protein繊維を採用したアイテムのお買い取りについて
MODESCAPEでは、Brewed Protein繊維を採用したアイテムの買取を承っております。Yohji Yamamoto、A-POC ABLE ISSEY MIYAKE、Goldwin、THE NORTH FACEなどが手がけたプロテイン素材コレクションの価値を理解し、適正な査定をいたします。お買い取りをご検討の際は、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
MODESCAPE
ブランド服専門の買取店モードスケープです。トレンドから過去の名作まで、ワクワクするブランドアイテムを販売・買取しています。ファッションに関する様々な記事・コラムを配信しています。